海の生き物のアセスメント その1

~そもそもなにが問題か~

電気はどこからやって来るか

電気は大事です。冷蔵庫も洗濯機もテレビも使えなかったら、よほどのアウトドア好きでなければ途方に暮れてしまいます。いまの生活は電気がなければ止まってしまうでしょう。

たまにはアウトドアもいいものです。防災準備にもなりますよ。

コンセントにつなげば電気は使えるのがあたりまえです。たくさんの人たちの気の遠くなるような努力で電気は安定して供給されていますが、ふだんはそれを意識する必要はありません。ましてや、電気に色がついているわけではないので、それがどこからやって来たのかは知る由もありません。大きなバケツにいろんな電気が注がれ、下についている無数の蛇口からそれぞれが電気を引き出しているようなものです。

でも最近、電気の会社がたくさんできてちょっとだけ事情がかわってきました。会社によっては供給電力源が太陽光やバイオマス、風力といった自然の力を利用した再生可能エネルギーの比率が高いところがあります。電気のもとを選べるようになってきたのです。私もおそまきながらある会社に鞍替えしました。それほど「お得」というわけでもありませんが、この電気はここから来ているんだな、と思うのはなかなか楽しいです。

再生可能エネルギー

いま、余っている土地に太陽光発電設備がどんどん増えています。お手軽な地産地消のエネルギーで、再生可能エネルギーの普及をひっぱってきました。太陽光に次いで期待されているのが風力です。とくに洋上には強い風がいつも吹いていて、風力資源はとてつもない量です。

日本が使える海の面積はインドの国土面積より大きいのをご存知でしょうか。排他的経済水域というやつです。日本はこの面積が世界第6位です。海の恵みといえば、おいしい魚と決まっていましたが、電力がその恵みにくわわってきました。

北海道や東北の沖合には、風車が立ち並ぶ洋上風力発電ファームの建設計画が目白押しです。技術が進歩して海にいろいろなものを建てられるようになりました。とはいえ、なんでもむやみにつくっていいわけではありません。たとえば1万kW以上の風車なら環境アセスメントが義務付けられます*。

*https://www.env.go.jp/policy/assess/1-1guide/1-4.html (2018.12.18確認)

陸上であれば環境アセスメントの事例はいくらでもありますし、手法もわかっています。経験のある人や調査会社も多く、アセスメント手続きはその結果がどうであれ、着々とすすめられます。ところが、海の環境アセスメントとなると前例があまりなく、みな不慣れで、洋上風力発電の環境アセスメントはいまだに手さぐりです。環境省からは「洋上風力発電所等に係る環境影響評価の基本的な考え方」*が示されており、具体的な調査手法も記載されていますが、実際に運用していくのはこれからです。

*https://www.env.go.jp/press/103898.html (2018.12.18確認)

海の環境アセスメントのむずかしさ

海洋生物のアセスメントでは、そもそもなにが問題なのかがわかりにくいです。海に橋をかけたり空港をつくったり風車を建てたりしても、海の中がどうなっているのかは見えませんし、人が住んでいるわけでもありません。なので、どんなことが起こっていても、あるいはなにも起こっていなくても、人間にはわかりません。漁師さんが魚が捕れなくなったと言い出すまで、あるいはいままであった藻場や干潟が小さくなりはじめるまで、開発の環境への影響は目に見えません。それに、もし漁獲や藻場の変化がほんとうに起こったとしても、開発のせいだったのか自然変動だったのかもわかりません。

海にはいろいろな生き物がいます。陸上なら、クマタカとかチュウヒとかシマフクロウとか、指標になる生物はわかっています。その生き物が広い範囲の地域の生態系に依存していて。その生態系のどこかがおかしくなると影響がでてくるような上位の種です。生態系の傘のようなという意味でアンブレラ種(高槻 2009)ともいわれます。環境アセスメントとはいってもすべての生き物を調べることは時間的にも予算的にもできないので、環境影響評価手続きではこうした指標種で生態系への影響を代表させるのはよくあります。ところが、海のアンブレラ種をどれにしたらよいのか、よくわかりません。

影響要因や海の中の生き物をどうやって調べるのかも困った問題です。海中工事で影響が大きいのは水中音です。ほかにも濁りとか景観とか電磁波とかいろいろありますが、遠くまで瞬時に届き、海の生き物が敏感で、どんな海洋開発でも避けられないのが水中騒音です。

残念ながら、音は見えません。海の生き物だって、船の上からのぞいても見えません。ひとが住んでいない海中では、陸上でよく使われている観察方法がほとんど役に立たないのです。

これまで述べたような問題、つまりなにが問題なのか、どの種をどうやって調べればよいのかがわかったとしても、その成果から影響の評価と予測をするのが、これまたむずかしいです。数字で示された環境基準がないので、測った値が活用できないのです。何デシベルの大きさの音が記録されましたというのは録音データを解析すればわかりますが、それがどの値を越えたら危険なのか、そのときに海の生き物のどんな影響があるのかを示した基準がないのです。

まとめると、海の生き物を対象にした環境アセスメントでは、次の4つの問題があって、わかりやすい答えが示されていません。

さて、どうしたものでしょう

海の中の環境アセスメントはわからないことだらけという状況です。でも、そのあいだにも、海のなかには風車や橋やトンネルがつくられ、船もいろいろなものを運びます。海底の石油探査のため強力な音源をつかった地底探査が日本でも行われていますし、将来は海底からの鉱物資源の採掘もはじまるかもしれません。海は手がとどかないものではなく、人間は海をかなり積極的に利用するようになりました。たとえば、海運がなければ物流もエネルギー供給も止まりますし、漁業がなければおいしい魚も食べられません。

いかに広大な海であっても、利用すれば大なり小なり、生態系へのインパクトは避けられません。海は大きくて人間が利用しても大丈夫、という幻想のしっぺ返しを、私たちはずいぶん経験してきました。

わからないこと、見えないことだらけだからといって、手をこまねいているわけにはいかないのです。調べて影響がなければそれに越したことはありませんし、生態系に重大な影響がありそうだとなったときにはその緩和策を考えなければいけません。

これからしばらくつづくはずの連載は、今日お示ししたいろいろな問題点に私なりの回答を考えてみたものです。スライドを一枚ずつ丁寧に解説していこうとおもいます。その分、時間がかかりますが、なにとぞ気長におつきあいください。なお、手っ取り早く知りたいという方は、コロナ社から刊行されました「水中生物音響学」をご覧ください。一冊でいろいろなテーマを扱っていますので、この連載ほど詳しくはありませんが、この分野を概観できます。

この内容は、2018.11.7に環境省の主催で仙台市で行われた「平成30年度 環境影響評価研修:環境保全と両立した風力発電所の円滑な導入」での研修講義 「海洋生物の新しいアセスメント手法」の内容をかみくだいて解説したものです。

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