海の生き物のアセスメント その5

~どうやって調べるか~

声がすれば姿が見える

スナメリならば声を聴いて調べるのが良いです。

私も、最初は半信半疑でした。いつ鳴くかわからない生き物の声をずっと待ち続けて、いったいなにがわかるのだろうと思いました。それに鳴き声が聞こえたからといって、どこいたのかはわかりません。ましてやそこに何頭いたのかとなりますと、鳴いていないイルカも数えなければなりません。そんなの無理だと最初は思いました。

イルカの仲間はエコーロケーションとよばれる超音波を使った探査能力をもっていて、積極的に音を発しながら水中を調べています。いったいどのくらいの頻度で鳴いているのか、イルカに録音機をつけて観察したところ、数秒から十数秒に一回鳴いていました(図1)。これなら、マイクロホンを水中に入れて1分も待てば、近くのイルカの声が入るはずです。

図1 イルカに音の記録器をとりつけて鳴く頻度を調べた実験

イルカ検出装置 A-tag

そこで、イルカに取り付けるために開発したA-tagという音の記録器を、船から引っぱってみました(図2)。いまでは定点型でブイなどに取り付けて使われることが多いA-tagですが、もともとは動物取り付け用だったためにtagという名前になっています。ちなみにAは音響(Acoustic)の頭文字です。

調査場所は中国の長江。三峡ダムの下流の宜昌市から上海市まで約1700kmです。一か月半かけて、この間を往復しました。船には、米国のプロの目視調査チームも乗り込み、ライントランセクトという方法でイルカの数を調べました。同じ船からA-tagを曳航して、目視と音響を比較してみたのです。

図2 曳航タイプのA-tag。運用は簡単で、A-tagをロープにくくりつけ、船の後ろに流しながら引っぱるだけです。スクリューなどからでる泡が超音波の雑音を発するため、A-tagは船の後ろ70mから87mのところに取り付けました。A-tagは電子回路も電池もすべて中に収まっていて、外に電線は出ていません。多少手荒に扱ってもだいじょうぶです。

声でイルカを数える

データをみてみましょう。

A-tagは水中マイクロホンが2つあって、音の方向も内部で計算して記録します。船の速度はイルカの泳ぎより速いので、イルカのA-tagからの相対方向はいつも前から後ろに動いていきます。船がイルカに近づいているときは、声は前から、通り過ぎると後ろから受信されるためです。

5分程度を切り出して、受信された音の大きさと方向をしめしたのが図3です。スナメリは頻繁に鳴いてくれるので、声は数秒から十数秒に一回と断続的に入っています。ちょうど方向が0となったところが、A-tagの真横をイルカが通過したタイミングです。たいたい14:58です。このときに受信された声の大きさ(上段の赤棒)が一番大きくなっていることからも、最接近のタイミングとわかります。方位を示す下段の黒い点を目で見ながらつないでいくと、赤線のように一頭のイルカが鳴きながら船の前方に現れ、後方に去っていった様子がわかります。

図3 A-tagで記録された音の大きさ(上段の赤棒)とイルカの方位(下段の黒点)。イルカはA-tagからみて赤線で示したように方向がプラス(前)側からマイナス(後)側に移動しています。

続けて複数の個体が通過したときには、黒い点がつながる赤線が何本できるかで何頭いたのかがわかります。図4は5頭が記録されています。最後の2頭は音の方向が混じっているように見えますが、拡大しますと2つのイルカの音声が分離できます。

図4 この例では5頭のイルカが通過しました。

最初は無理かと思っていましたが、スナメリについては声を聴いて見つけられるようです。方向が個体ごとに分離できれば、頭数も数えられました。あとは鳴いていない個体の数を数える方法が残っていますが、これは別のコラムでご紹介しますのでしばしお待ちください。

目視 VS 音響

さて、米国のプロの目視調査チームとA-tagの比較はどうだったでしょうか。

図5は、点線で示したのが目視で実線で示した音響で観測したスナメリの遭遇頭数です。1kmあたりに換算してあります。目視の点線と音響の実線はよくあっているように見えます。増減の傾向だけでなく、検出したイルカの頭数の絶対値も似ていました。スナメリは中流域に密度の濃いところがあって、上流の宜昌市付近と下流の上海市付近はあまりいませんでした。

目視というのはとても手間と人の努力が要ります。左右に一人ずつ配置し、双眼鏡と肉眼でイルカを発見したら目測で方位と距離を記録します。別に記録専門の係りも一人配置するのがふつうです。人間は疲れますので、最低でもこのチームを2つ、できれば3チーム用意します。するとかなりの経験者が6人か9人必要です。

音響ですと、小さな装置をロープにつけてひっぱれば、あとは船が横切ってロープを切らないように見張りをたてておけばよいです。解析は一日がおわってからゆっくりやればよく、8時間程度でしたら30分もあればイルカの数を勘定できます。

図5 目視調査と音響調査の比較。1kmあたりの遭遇頭数でみると、目視も音響も同程度でした。どちらも移動平均をかけてなめらかに表示してあります。

声を聴いてイルカを調べるのは、なかなか便利な方法です。

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